2021年6月15日 note

現代日本映画の誉れはアクションである。香港やハリウッドで鍛えてきたアクション監督やスタントパーソンが、技術やセンスを逆輸入。限られた予算の中で、「日本映画」としての見せ場を作ってきた。これに俳優たちも呼応し始めると、ここ十年くらいで日本アクションのレベルが際立ってきたんじゃないかと思う。多少つまらなそうな企画でも、アクション監督や俳優の名前でちょっと見てみるかってなチョイスも出て来たもの。谷垣健治、坂本浩一、大内貴仁、辻井啓伺、下村勇二に坂口拓の名前を見つけると、そわそわするようになってしまった。特撮モノは言うに及ばず、「るろうに剣心」「HIGH&LOW」「GANTZ」「クローズ」などの漫画劇画チャンバラに(映画の出来はともかく)、殺陣・擬闘でしびれるシーンがいくつも作られてきた。テレビドラマでさえ、小さいながらも見せ場がある。日本人は元々武術への知見と繊細な所作が仕込まれているから、自然と美しくなっていくのだろう。ハリウッドの肉体派力技とは少し違うんだよね。
俳優さんでも吹替なしで取り組む人が増えてきて、その身体能力や単純な“かっこよさ”で株を上げてる人たちがいる。金を払ってでも観る価値があるよね、佐藤健や綾野剛。その少し先輩格で、ストイックかつ異常なまでのこだわりを見せるのが岡田准一だ。格闘技オタクを公言する彼は、カリ(フィリピン)、ジークンドー(李小龙!)のインストラクター資格を得ているだけあって、「SP」の頃から目が怖かったですよ、この人。そんな彼が見つけた次の“当たり役”がファブルこと佐藤明だ。
映画「ザ・ファブル」1作目は2019年に公開された。このとき岡田准一はフランス人アラン・フィグラルツ(リュック・ベッソン御用達)と共にアクションを振り付けた。「ザ・ファブル」でのアクション見せ場(岡田の体技)は素晴らしかった。反面「それ、本気で面白いと思ってるのか?」と突っ込みたくなる退屈なシーンも少なくなく、「BORN THIS WAY」の起用センスには耳を疑った。それでも興収17億くらいいったのね。映画としてのバランスがよろしくなく、どうにも僕は中途半端な印象だった。だから、続編登場には正直期待はしなかったのである。
そんな中、上海国際映画祭で「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」を観る。虹桥艺术中心の剧院厅だ。チケット売り切れ直前だったので、端っこの席。結局上映開始時は埋まらなかったので、転売ダフ屋がズッコケた(と思う)。まぁ上映開始後もお客さんはちょこちょこ入ってきたけどね。
ここは普段は舞台をやってる劇場なので、映画の音響はイマイチ。正面スクリーンから台詞、僕の席の真上のスピーカーから独立して効果音が流れてくるので、ちょっとだけズレがあって気持ち悪かった。しかも盗撮や飲食監視のスタッフが、僕と足が触れ合いそうな位置に時々立って、小声でインカムに何か話しかけてるので気になって仕方なかった。イベント上映だからしゃあない。
日本に帰国できない中、新作邦画を観られるのは貴重なので、特に下調べもせずに飛び込んだわけですよ。それで度肝を抜かれちゃった。なんと…驚くべきことに、前作の悪いところを改善しているのである。原作や出演者をちゃんと残しつつ、ダサさを切り詰めて、物語の行先をはっきりさせたのだ。監督以外のスタッフが少し入れ替わっているのかな。これは偉いですね。勇気をもって取り組んだ印象がある。
1)ファブルの見せ場は冒頭と後半に集約。
まずは暴走車へのしがみつき。トム・クルーズがやりそうなやつだ。細かい動きの積み重ねから、最後は落下の大技をキメる。トムクルだったら「俺がやってるのに覆面したら意味ないだろー?」とか言うだろな。後半の団地建設足場はジャッキー・チェンかバスター・キートンか。何十人もの敵を倒しながら脱出し、さらに子供を救出する一連の流れはもはや芸術です。
あれを自分でやる岡田准一の凄さは、WEBでのメイキングを観るだけでもわかる。アホかっこいいぞ。
2)物語のウェイトを半分以上平手友梨奈と堤真一に寄せた。
今回はいわゆる「宇津帆編」。この二人がパブリックイメージと違う役どころでも、逃げないのがよかった。
3)安藤政信と木村文乃を美味しく組み込んだ。
敵味方両陣営のサブ担当としてバランスよく設定してある。太腿もいい。とてもいい。
4)佐藤二朗の使い方が福田雄一より上手い。
これが今回一番感銘したかも。コーナーゲスト的扱いでいつものアドリブを回すのだが、横に山本美月を立たせ、アシストさせるのです。彼女が佐藤に気圧されない。そのおかげで佐藤がやりすぎず、シンプルによくなった。横でかわいい子が合わせて笑ってる…ってのはアイディアですね。つられて笑っちゃったよ。
5)脱力ギャグやダサ要素を極力削減。猫舌やヘタイラストでチョケるファブルや、宮川大輔(残留)は“お約束”として配置してあるが、物語の邪魔になるほどは引きずらなかった。主題歌は相変わらずのベタ配置だが、前ほどはひどくない。吉本芸人の投入も今回は成功している。
6)上映版は日本語音声、英語字幕焼き付けに加え、劇場のLEDに中文字幕が流れる。日本で外国のミュージカルやるときの字幕出しみたいな感じだ。で、これを読んだ中国のお客さんが先笑いするんですね。その声が大きいから台詞が聞こえなかった。これ、日本で我々が字幕先読みしてしまうのと同じやつですね。まぁ難しい台詞はなかったのでいいですw。
というわけで絶賛しちゃいましたが、131分の長尺(これを100分くらいにする勇気はほしい)や、改善しきれず残した要素、黙ってると「目つきのよくないおじさん」になってしまう主人公佐藤(なんだかんだで実年齢40歳)など、気になる点はいっぱいあるけどね。
でもね。今回僕が最も心震えたのは、上海のお客さん~映画祭に来るくらいだからそれなりの感度を持ってる若者たち~が、平手の初登場で「かわいい!」と叫び、脱力ギャグで声をあげての大爆笑(佐藤二朗のボケが一番ウケた)、エンドロールでは拍手喝采していたことだ。
面白かったんだから賛辞を贈ろう。その素直な感想を中国のお客さんは体現してくれたのはいいよね。これ、作り手がこの空気を感じたら泣くんじゃなかろか。これこそが映画の喜びですよ。
早く平和になりますように。
「るろうに剣心」最終2作を観ていないので、まだ言い切れないのだが、この「ファブル2」は間違いなく今年の日本アクションを代表する1本になることは間違いない。
日本のアクション、まだいける。もっといける。コンスタントに輩出されるといいなぁ。
そういえば10年くらい前、とある語学教室で同じクラスに中学生の女の子がいて、某アクション道場に通っていると言ってた。そうか、将来国際市場に出るために勉強してたってことか。頼もしいよなぁ。あの子、どうなったろう。

