大ヒット「トップガン マーヴェリック」はノスタルジアビジネスの最高峰だった。ついでに、テンセントピクチャーズ降板の影響も考える。

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2022年5月30日 note

“前作”「トップガン」は1986年の公開。ブラットパックのひとりだったトム・クルーズが、世界的大スターに上り詰めた出世作だ。MTV全盛の映像&流行歌と、シンプルかつアメリカ最高なノリは、かぶれやすい日本にも輸入され、87年の正月映画として大ヒットした。かくいう僕も新宿プラザ劇場で爆音を体感し、“かっちょいい”と感じたクチだ。当時は完全無欠なデートムービーでもあった。

「トップガン」はパラマウント映画の記録的ブロックバスターとなり、ビデオソフトもバカ売れ、いまだに愛され続けている。クルーズも超一流のセレブリティとなり、単なる俳優だけでなく、自らのプロダクションを率いるプロデューサーとして、「大スタートム・クルーズ」をセルフコントロールする。自らの企画・製作・主演はイコール作品に責任を持つようになった。だから熱心に世界中を飛び回り宣伝するのだ。徹底的なプロ意識は結果的に作品の格を上げ、世界中に彼のファンを増やすこととなった。で、いま59歳。7月で還暦を迎える。そのトム・クルーズ最新作として「トップガン マーヴェリック」が公開となった。

趣向は明かさないが、この映画にはいくつかのツボがある。
まず、トム・クルーズ映画の基本ルールとして「トム・クルーズは死なない」を覚えておこう。彼の製作する映画で、自らが人殺しをする役以外で、彼が劇中死ぬことはない。どんな危機的状況からも、必ず帰ってくる。「ラストサムライ」が顕著だ。
ミッションインポッシブル以外の続編を作らないのも以前はルールブックに書いてあったのだが、「アウトロー」で改訂された。これは相性のいいクリストファー・マッカリーと出会ってしまったからだ(たぶん)。「アウトロー」の成功でマッカリーは「ミッション・インポッシブル」にコンバートされる。ジャック・リーチャー物も、永遠に作れる可能性を内包していたが、続編は趣旨変更の結果ズッコケた。これはお気の毒。

前作「トップガン」はクルーズの企画製作ではなかったわけだから、続編企画はブラッカイマー主導でやれたはずだ。クルーズにとってはいつやるにしても、いかに自分でコントロールできるかが重要だった。マーヴェリックが再び戦闘機に乗る理由があるのか。逝去したトニー・スコットを超える映像が作れるのか。
まったくの邪推だけど、こんな風な流れだったのではないか。
・続編の話は常にあったんだけど、トム・クルーズが年をとればとるほど現役パイロットとしではなく、前作におけるトム・スケリットみたいな出番になると誰もが予想した。
・ブラッカイマーとトニー・スコットはやる気だった。が、スコットは自殺してしまう。
・クルーズ主導の時代になっていた。彼は「俺の映画」(責任も含めて)にする気になった。トムが動けばすべてが進むのは世界の道理だ。

で、こうなる。

●ライトサイド

コロナで遠のいた40歳以上の客層を劇場に呼び戻すには、「新しい」ものにする必要はない。前作に熱狂した世代に、あの頃の興奮を呼び戻す方法は、ノスタルジアだ。「マーヴェリック」は徹底したマーケティング分析の賜物だ。お客が何を喜ぶのか、ロジカルに組み立てられている。まず、冒頭のアレで、まずは誰もがタイムリープする。そして、50代後半なのにすべすべお肌のトム・クルーズが、NinjaH2にまたがるのだ。既視感と郷愁のみで構成された単純明快ストーリーが次々に展開する。

2019年のサマームービーの予定が、いったん遅れて2020年公開になる。が、コロナ影響で数回の延期となり、結局2年後にようやく公開とあいなった。もはや映画は配信に流れる時代になっていたが、プロ映画人トム・クルーズはParmaunt+の45日ルールには従うものの、劇場公開に固執した。「マーヴェリック」は高画質フォーマットやハイクオリティサウンドを必要とする大型映画であるべきだと。劇場には「映画」を観たい客に来てほしい、と。(80年代バブル全盛の)よき時代のアメリカ映画が持っていた魅力を堪能してほしい、と。そのこだわりは果たして大当たりした。
郷愁を誘う「みんなが観たい映画」が劇場の大スクリーンでさく裂した。まさにノスタルジア・ビジネス。映画やドラマに於けるリブート、リメイクはこのビジネスモデルに乗っかっている。

ストーリーも郷愁を前提としてある。30数年ぶりの続編としてのサービスと、観客自身が「若かった頃の自分」を重ね合わせられる設定に。そう、大きな効果として、実年のおっさんたちに対し、マーヴェリックは「俺はこんなに働いている。みんなにもできないわけはない!」とたきつけてくる内容だってことだ。劇中彼は教え子たちに、言葉ではなく体を張って訴えてくる。あろうことかクルーズは自分で“乗っている”。
幼稚な表現だが「元気の出る映画」となり、観客のツボを刺激した。結局コロナでふさぎこんだ全世界の人たちに「がんばれ」って単純明快なメッセージを発信したわけだ。映画人として、エンターテイナーとして、トム・クルーズが天から与えられた才能が爆発した。結果、おっさんはもとより、無垢な若者たちもこのベタなアメリカ映画に涙することになる。

●ダークサイド

2019年までの予告には、燦然と腾讯影业(テンセントピクチャーズ)のロゴが輝いていた。しかし、今回の公開版では同社の文字はない。なぜか。途中で降りているからだ。理由は明らかにしていないが、台湾と日本の旗に関するエピソードがあるように、多分に政治的配慮がつきまとう映画(内容)であったことも確かだ。現状のアメリカと中国の関係性からすると、2019年ならまだしも、米海軍の圧倒的勝利を賛美する内容の映画を、中国政府や党が喜ぶはずがない。しかも、中国企業が利益目的で投資しているなど、ありえない事態だ。なので、結局フェードアウトしてるわけで。映画「壮志凌云2:独行侠」は、中国公開は困難だ。

勝利するマーヴェリックたちは歓声の中で帰還する。一方、明らかにされない敵は誰だったのか。爆撃大虐殺された“敵国”は、地球侵略を企てるエイリアンではないはずだが…。
政治配慮が少なからず影響するので、今後中国資本が今回のような内容のハリウッド映画に投入される例はなくなっていく。ファンタジーならともかく。「マーヴェリック」が中国市場をあてにしなくても勝てる!と実績を出してしまうと、この状況はさらに進むだろう。

中国の若者たちはトム・クルーズを「ミッションインポッシブル」シリーズのヒーローとして認知しているが、「おっさんなのにようやるんだわ」という印象を持っている。

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