フリードキンの「恐怖の報酬【オリジナル完全版】」(Sorcerer)をやっとこさ観る。

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2021年4月23日 note

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フリードキンの「恐怖の報酬【オリジナル完全版】」(Sorcerer)を観る。やっとこさ。
77年6月24日にアメリカ公開されたんだが、あまりの不評で海外公開版はばっさり30分編集された。日本は78年の3月、中学生だった僕は、そういう事情をあまり知らずに見に行き、「なんだかよくわからない」印象のまま終わった。当時の映画雑誌では、「フリードキンの新作撮影中!」「主演ロイ・シャイダー!」と毎号レポートされていたので、すごく楽しみにしていたはずなのに。
当時のフリードキンは「フレンチ・コネクション」と「エクソシスト」でアメリカを代表するスター監督だった。なので彼の次回作は作りたい映画だった。それはジョルジュ・アルノーの小説「Le Salaire de la peur」の再映画化だった。小説は、1953年のフランス映画「恐怖の報酬」で、アンリ・ジョルジュ・クルーゾーが監督、世界中で高評価・大ヒットしたサスペンスだ。これ、最初にテレビで見たんだけど、モノクロ・スタンダードに加え、全編を貫く緊張感と薄汚れて暑苦しい男たち(イヴ・モンタンやシャルル・ヴァネル)のギラギラ感に圧倒され、くたくたになってしまう映画だった。しかも見たのは(不完全な)フリードキン国際版よりかなり後だったはずだ。なので、自分の中では「恐怖の報酬」はそれ以上掘ることはなく幕を引いたのだった。
それが2013年にデジタルリマスターされ、世界中で再公開。日本でも2018年に劇場公開に引き続きパッケージ発売された。上映時はタイミングが合わなかったんだけど、なんとなく義務感にかられ、キングから発売されたブルーレイ2枚組を購入した。そう、オリジナル完全版だ。
そして40数年ぶりに本編を観て…ド肝を抜かれてしまった。
それぞれの事情で住処を追われたはみだし男たちが、南米の独裁政権下の町にやってくる。ギャングのドミンゲス、不正行為で逃亡した投資家、パレスチナ過激派の爆弾犯、そしてナチス残党の殺し屋。そんなある日、町から離れた油井で爆発事故が起き、消火のためにニトログリセリンを現地移送することを石油会社は決断。少しの振動で爆発してしまう超危険なミッションに4人の“悪党”が選ばれる。報酬は大金だ。そのため2台のトラックで密林を進むのだが、そもそも振動しないための低速運転、悪路に大雨と泥水、いくらなんでもな吊り橋、道を遮る巨木、山賊のように襲い掛かる反政府ゲリラなどの「恐怖」に次々見舞われる。
ド肝を抜かれたのは、なんといっても「豪雨」と「吊り橋」だ。CGも特撮も使わないすべてがホンモノ。こんな状況で撮影されたこと自体が狂気だ。手に汗…どころか心臓バクバクですよ。公開当時もこのシークエンスはカットされていなかったはずだが、記憶に薄いのはなんでだろ。登場人物への感情移入が欠けていたのか。
さらに、意外だったのは、ラストシーン。国際版ではばっさりやられてたようだ。これは初めて観たので驚いた。
観終わったのは深夜だったんだが、しばらく興奮して寝付けなかった。そこで、ブルーレイの特典ディスクを開く。
まずは「魔術師たち」というフリードキンとコラス・ウィンディング・レフンの77分の対談だ。フリードキンにとって最初は、「なんだこの小僧」くらいのあしらいだったのだが、我の強いレフンも「僕は若い頃のあんただと言われてるんですが…」と何度も口にして負けない。フリードキンは話が長く脱線しやすく、もしくは話を本筋から逸らそうとけむに巻くのだが、レフンもフリードキンのしゃべりを遮って自分の話題に引き戻すので、互いにイライラしてきたのかヒステリックに言い合う、というインタビューとはとても言えないくらいひどい内容になっている。それはそれでめちゃめちゃ面白いんだけどね。新聞の酷評に対し「俺にとって最高の出来」だけど、「スターウォーズと同じ時期の公開で、観客はああいうのを望んでしまう時代になった」と皮肉交じりで語る。さらに、マックイーン、マストロヤンニ、リノ・ヴァンチュラらの赤裸々な降板理由まで終始面白かったね。
さらに「フリードキン・アンカット」なる2018年のイタリア製ドキュメンタリー。フィリップ・カウフマン(高校の同級生)、コッポラ、タランティーノ、ウェス・アンダーソン、ウォルター・ヒル、エドガー・ライト、アルジェントらの監督、エレン・バースティン、マシュー・マコノヒー、ウィレム・デフォー、ウィリアム・ピーターセン、ジーナ・ガーションら俳優が、フリードキン伝説を語る。もちろん本人も出てくる。冒頭いきなり「ヒトラーは興味深い」とか言っちゃってもう大変だ。欧州の各所で映画祭に呼ばれると、マイクを持ってウケを狙う。インタビューでも喜んでもらおうと過激な言動を繰り返し、「ほしかったんだろ?」といたずらっぽい目で見る。インタビュー時点で82歳、現在もまだ存命で85歳だ。元気な爺はめんどくさいけど、観ている分には最高ですね。
「エクソシスト」は信仰の神秘、「恐怖の報酬」は運命の神秘とか言われちゃうとたまらんですな。フィルモグラフィはすべてではないが、デビューとなったドキュメンタリーや、フリッツ・ラングへのインタビュー、「リハーサルは臆病者とバカがやるもんだ」「映画賞なんてくそくらえ」と息巻くのがとにかく可笑しいの。
この二枚組があれば、フリードキン研究が始められるな。しないけど。
せっかくだから、パッケージを持っていない「真夜中のパーティ」「クルージング」「世紀の取引」「ブリンクス」あたりは見直したいなぁ。
なのにサブスクでの配信はまったくないんですね、この人。これも何か理由があるのかw。

※2024年後半「世紀の取引」はU-NEXTで配信、「クルージング」は劇場でリバイバル予定。

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