2021年10月30日 note
10月某日。インディーズ映画だが、おそらく今年の代表的な存在になる「由宇子の天秤」をユーロスペースへ観に行く。監督自ら劇場にいて、入場の際に名刺をもらった。現代の口コミ=SNSを多用して、地道に宣伝していくのだね。汗をかいてる人はやっぱり偉いよ。
こういう独立系映画を積極的に観ることはあまりないのだが、今作は2020年から海外で映画祭回りをしていた作品だけに、さすがに気にはなっていた。
テレビのドキュメンタリーを手掛ける由宇子(瀧内公美)は、女子高生いじめ自殺事件の取材を行っている。女子高生の交際相手とされた担任教師も自殺してしまい、由宇子らはそれぞれの家族の証言をカメラに収めるため飛び回るが、局側からの「指示」により真実にモヤがかかっていく。そんな彼女の実家は小さな学習塾を経営している。塾長は父(光石研)で、由宇子も仕事のないときは授業をしていた 。ある日、生徒の一人・萌(河合優実)が体調を崩し、妊娠していることが発覚。由宇子は彼女からおぞましい言葉を聞いてしまう。
物語は由宇子の「見たもの・聞いたもの」だけで構成される。出てくる人々が大なり小なり秘密と嘘を抱えていることが、徐々にわかってくると、今度は誰を信じていいのかわからなくなる。由宇子自身も、仕事と家族の秘密を守るために嘘をつく。積み重なる嘘に信頼関係は壊れていくので、終盤はどぎつい葛藤となる。いささかドラマチックすぎるきらいはあるけれど、このスケールの映画でクライマックスを盛り上げるには、このくらいの事件は必要ってことか。
二つの事件を追う(追われる)由宇子の行動は、まるでハードボイルドの女探偵みたいで表面的にはかっこいいんだが、巻き起こる事件はさすがに悍ましく、しかも平和な解決はどこにもない。
本作を製作・脚本・監督・編集した春本雄二郎は巷のニュースをヒントに、こういった事象や報道の姿勢などに疑問を感じ、映画で問題提起してきた。どこから見るか、どこまで見るかで、答えがわからなくなることを、「由宇子の視点」に限定したことで描出する。これが結果、リドルエンディングとなり、観客の脳裏にお土産を焼き付けて帰らすことになった。
この手法は見事。脚本がいい、といえる。
ただし、さすがに2時間半は長かったか。切れるポイントもあったように思うが。

